建築家を目指したきっかけ
遡れば高校一年の頃、母の友人の伝手でチェコに行く機会があり、その時に行ったターボルという都市で小さな蔵に出会いました。紀元前から建っているというその石積みの佇まいを眼の前にして、建築が持つ時間のスケールに感動したことがきっかけのような気がします。 そもそも父が建設会社で現場監督を、母が設計事務所の経営をそれぞれ仕事としており、幼少期を過ごした実家にはドラフターやコピックや建築の本や雑誌が並ぶ、日当たりの良い書斎がありました。そういった環境の中で建築に興味を持つのは自然な流れだったように思うのですが、建築家を目指したいと両親に伝えたときは、「絶対にやめておけ」と反対されたのを覚えています。当時は今よりも更に激務・薄給が当たり前で食っていける保証など何処にもない業界だった事を考えると親心としては当然のことかもしれませんが、それまで何一つとして息子(私)のやることに反対したことのない両親に反対されてしまったことで、逆に「そこまで言うのなら寧ろやってやる」と決意しました。
住宅設計の拘りや心がけていること
お客様との対話を丁寧にすることが一番ですね。家づくりはほとんどの方にとって初めての経験なので、いわゆる「施主要望」というものも絶対的なものではなく、本当に必要なものはなにかを掘り下げていくと最初言っていたこととまるっきり変わってしまうこともあります。ネットやメディアに氾濫する家づくりの情報に惑わされる方も少なくありません。しっかりと対話と議論をしたうえでこちらがプロとして提案・意見することで、お客様のご家族にとって本当に良い家の形が見つかると考えています。その上で、他の事務所にできない、見たことのないような魅力的な提案であることが重要であると考えています。そのためにプランニングだけでなく、ディテール(細部)までしっかりと仕上げるため、現場に頻繁に足を運び監理をするようにしています。
お客様との関係性
上述の理由から打合せの時間が長くなることもあり、だんだんと何でもものを言いやすくなっているのかな、と感じています。
その結果からか、お引渡し後も気軽に声をかけていただける関係が続いている方が多いと思います。
お仕事のやりがい
住宅設計においては家を楽しく使ってもらうことがやはり嬉しいですね。住宅に限らないかもしれませんが、やはり使ってもらうことで初めて建築の空間には命が宿ると感じます。あとは、そもそも建築が好きというのが前提にありますね。そして建築の設計は、ものづくり、社会、歴史、風土など、多くの要素を統合する多角的な視点が求められる仕事ですので、とてもやりがいはあります。
今まで設計された事例について
独立後、一番初めに設計に着手したのが海の目の前の別荘でした。別荘ということもあり、普通の住宅ではあり得ない形やプランを提案させていただきましたが、結果としてとても気に入っていただき、今でもお客様が来島する際に一緒に釣りに行き別荘に泊めていただくなど良好な関係を続けています。また、奄美大島の風土について考えを深めはじめるきっかけにもなり、その後の私のプロジェクトにも影響を強く与えた建築です。
編集後記
以前設計を依頼されたお客様と、完成後もプライベートで親交があるというお話を聞いて、人との出会いや繋がりをとても大事にされているのだと思いました。また、ご要望を聞きつつも本当にお客様に必要なものはどれか、しっかり時間をかけて対話と議論をしてくださることはお客様にとって何よりも嬉しいことだと思います。小野さんの真摯なお姿を見て、お引き渡し後もお客様とのご関係性が続いているのだと思いました。
小野さん、ありがとうございました。(飛髙)