作品詳細
施主夫婦は二人暮らしに快適な平屋を建て、趣味であり副業である自動車の整備をして暮らすことを考えていました。
旦那さんは当初、庭を作業スペースとして「カーポート」を後付けすることや家にガレージが付属する「ガレージハウス」をイメージしていたのですが、夫婦のライフスタイルを考えると、ガレージを家と同じくらい重要な存在として扱い、独立した店舗のように設える「ガレージとハウス」の形式が良いと考え提案することにしました。
そこに住む人のアイデンティティが可視化されるような住宅を作ることで、無個性な郊外のロードサイドに新しい風景を作ることができればと考えました。
広い敷地に住戸とガレージを配置するにあたり、初めに30坪の四角いボリュームを配置し、次に整備する車のためのロータリーとなる道を通すことで、20坪の住戸と10坪のガレージにスプリットさせました。
郊外に建ち並ぶ住宅で、カーテンを開けているものを見ることはほとんどないのですが、この住宅ではカーテンを開けていても気持ちの良い暮らしをしてもらうため、車や人の交通や来客の往来があるガレージ側に対してしっかりと壁を設けてプライバシーを守り、雑木林の見える南側へ積極的に窓を設けました。
南側の窓だけでは採光に不安があったので、北西側の壁にハイサイドライトを設けて天井をすのこで作り、これにより一日を通して多様な自然光が屋内に落ち、時間のうつろいを感じられるような空間となっています。
当初の要望にはなかったガレージ棟を予算の制約の中で実現するため、構造を見せる部位や仕上げ範囲の検討、素材選び等の様々な調整を行い、経年変化することのできる素材をセレクトしています。
戦後から現在に至るまで「nLDK」 を主体としてきた日本の住宅は、「ソトで活動し、イエで寝る」ことに最適化していて、そこに暮らす家族の姿が外から感じられるようなものはとても少なかったように思います。
「ガレージとハウス」ような、守られた住戸と開かれた職場(あるいは趣味の空間)の両立によって、そこに暮らす家族のアイデンティティが街に滲み出す、そんな住宅があっても良いのではないでしょうか。
また、 働き方の変化により家で過ごす時間が増えると、きっと今まで以上に家族それぞれのスタイルに合わせた居場所が重要になってくるでしょう。
「ガレージ」と「ハウス」は、それぞれが旦那さんと奥さんにとって自慢できるような居場所になってくれるといいなと思っています。
黒澤 健一
kurosawa kawara-ten
千葉県
HP:http://kurosawakawaraten.com/
kurosawa kawara-tenは真面目に建物から都市までを考える、千葉県市原市にある建築設計、建築工事、不動産仲介のオフィスです。
改めて真剣に考えてみると、地方都市は思っているよりもうまく機能しなくなってきているようです。私たちの関心は、どうしたら機能不全を起こしている地域が持続可能な状態を作り出せるのかということにあり、その時々の経済や産業の流れの中で作り出されてきた住宅地やリゾート地や商業施設などが、そのままの用途や状態では使われ続けることが難しくても、維持管理と創意工夫を忘れなければ、また新しい方法でなら可能性があるのではないかと考え続けています。
私たちは建築の力を信じています。建築が変われば生活や考え方も変わる、建築はそこに暮らす人々の意思を象徴して勇気づけることができる。そうして、人々の古くて新しい生活が続いていくことができるのだと思います。
新しい建築が地域に多様性を生み出し、代謝を促す。豊かな生活が魅力を作り、人々を集めて留める。kurosawa kawara-tenが目指すのはそんな建築を作り出せる場所です。