作品詳細
閉鎖的になりがちな雪国で「ウチ」「ソト」をつなぐ家
止揚( しよう 独:アウフヘーベン/ Aufheben)
止揚とは、「異質や対立等の2つの要素」が、それぞれの本質を失うことなく、より高い段階で一つに纏められることを意味する。「双対(そうつい)関係」あるいは、「双対性がある」と表現される。
本計画では、「2つの要素」を「ウチ(内部)」「ソト(外部)」とし、「止揚」や「双対関係」を住宅に体現するならば、どのような作法が望ましいかを探究した。空間同士が「止揚」するならば、住宅にはどのような可能性があるかを提案する。
敷地は、新潟県長岡市に位置している。近くには信濃川が流れ、田園風景が広がるのどかな周辺環境だ。計画地は、近隣に子育て支援センター・美術館等多くの商業・文教施設があり、静と動のバランスの取れた生活ができる。計画地から、全国的に有名な夏の「長岡花火」会場も近く、賑わいのある町・歴史・住民の温かさを感じられる魅力溢れる地域だ。ただし、長岡市は雪深い。冬季ともなれば、2m近い積雪量となることもある。一般的に「雪国の家づくり」は、防御的・閉鎖的になりがちである。本計画地は、長岡市でも賑わいのある地域でありながらも、「家(ウチ)」と「地域(ソト)」は、分断されていることが多いと感じている。
防御的・閉鎖的が悪いというわけではない。むしろ、それが雪と共に生きるという上で重要である。しかし本計画では、絵本の読み聞かせや貸しギャラリー・地域交流の場等、様々な活動を行える家にしていきたいという要望が上がった。雪国「だからこそ」地域との繋がりを大切にしたいと強く考え、雪国の家づくりを良く知る地域の工務店と協力し「止揚」を汲んだ空間に挑戦した。
完成して1年が過ぎた頃から、週末になると近所のこどもたちが遊びに来るようになってきた。地域に開かれた家は、自然にこどもたちが集まり、こどもたちのご両親が集まり、会話が生まれ、小さなコミュニティーが育まれている。「ウチ」「ソト」の異なる2つの要素を、中間領域を介して一つの空間を創出することで、「止揚」という思想を汲んだ住宅のあり方を見出せたと考えている。晴れた日には木製建具を解放し、ステージまでテーブルを連続させ、多くの人と「ウチ」「ソト」の境界なく、素敵な時間を共有することだろう。
これは、古くから日本にある、通り土間や路地的な商店様式、大きな玄関土間に通じている。あるいは、桂離宮にある内部空間にいながらにして外部空間を感じる変化を、「止揚」という思想を体現することで、現代に継承する手の入れ方になる可能性があると考えている。
豪雪地帯でありながら、「ウチ(内部)」「ソト(外部)」を「止揚」することで、地域に開かれた住宅を創出できることができた。雪国の工務店にとっても挑戦的なプロジェクトであったこと、素敵な空間づくりに尽力してくれたことを含め最大限の賛辞を送りたい。
所在地 :新潟県長岡市
用途 :戸建住宅・スタジオ
竣工 :2019 年
設計 :廣田真治+アークエイト
構造設計 :吉岡正善設計室
設備監修 :大渕政明(長建設計事務所)
木製建具 :キマド
造作キッチン:Wood Worker
木製階段 :林健太(アークエイト)
施工 :有坂慶介、渡辺悟、林健太(アークエイト)
工事種別 :新築
構造 :木造
規模 :地上2 階
敷地面積 :173.35m²
建築面積 :52.30m²
延床面積 :93.72m²
設計期間 :2017.11-2018.06
施工期間 :2018.08-2019.07
廣田 真治
Shinji Hirota Design atelier
新潟県
HP:http://shdatelier.net/
2010-2012 年、長岡造形大学建築・環境デザイン学科教務補助職員時に設計補助として、複数の設計・研究プロジェクト(建築・構造・ランドスケープ)に参画。2012 年長岡造形大学山下研究室研究員として、「MàRoù の杜」設計プロジェクトに参画。同年、株式会社長建設計事務所に入社。複数の公共建築に携わり、意匠設計・監理業務を担当し、現在に至る。
2017 年より、自身の思想・作法を体現すべく、デザイン活動を開始。2018 年、「雪国の家づくり」に、自身の作法を汲んだ「止揚する家」を実験住宅として設計・監理し、モニタリングを続けている。