作品詳細
計画地は豊かな森に包まれた歴史ある別荘地。東側は谷であり、緩やかな斜面で隣地と接するため、東に大きなパノラマの借景が楽しめる立地。初めてこの場所に訪れたとき、この美しく恵まれた景色を、家の内部に取り込むことで、室内や屋外という意識そのものを曖昧にするような居住空間をつくることが大切と感じました。その空間は、豊かな自然がつくりだす四季折々の変化を五感使って感じる場となり、喧騒から逃れて森の中で過ごす “憩う”という行為の力を最大限引き出すことができます。このコンセプトを実現するために、断面計画では、内部から視線が外に自然と向けるような勾配天井としました。この勾配天井の表現には、温熱性能も耐震性能もさらに施工性も考慮した合理的なディテールデザインであり、意匠性だけでない表現が現場を進めるうえで職人の士気を高める要素になっています。
家の省エネ性能は、Q=1.2W/㎡K、UA値=0.34W/㎡K。省エネ基準地域区分でいう2地域という寒冷地地域のため、この省エネ性能により、冬の暖房エネルギー消費量を大きく減らすことを実現しています。また、関わる職人が持てる技術を最大限発揮しながら合理的なディテールデザインが技術の伝承に少しでも良い影響を与えることを期待して設計および監理をしています。
井野 勇志
一級建築士事務所アトリエムカイ
長野県
HP: https://atelier-camui.com/
設計事務所の目指す方向は、その場所が持つポテンシャルと建築を作る素材や技術に、正面から向き合い、デザインし、さらに地域に根差す存在になることです。自然環境を大切に、人間が本能的に求めるべき『憩い』の空間を考え、様々な居場所を求めて、居心地のよい空間の設計をしています。また、現場監理では、職人さんとの多くの対話と一緒に手を動かすことを大切にしています。関わる全ての人と1つのチームになることで現場が進み、このことが地域性の高い事務所の特性の1つになっています。