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「暮らしぶりという物語」その先に住まいを考える 中平 充夫さん

建築家を目指したきっかけ
 直接のきっかけは、師匠で建築家の川口通正さんに「建築家を目指してみないか」と言われたことです。川口さんは独学で建築を学ばれた方で、日本の空間的特徴の一つである陰翳(かげり) や伝統的な素材を用いながら、そこに現代的解釈を加えた上で再構成し、住宅をはじめ多くの空間を設計されています。
 川口さんとお会いしたのは、ある建築雑誌で所員を募集されているのを見て応募の手紙を書いたのがきっかけでした。大学卒業後、世界の家具を扱う企業に就職し、日本や外国の方々の暮らしと日々向き合う中で、空間そのものを生み出すことへの関心が強くなり、独学で建築を学び始めました。当時、日本の伝統家具に触れる機会も多かったことから、日本の風土、風土から生まれる文化や人々の暮らしぶり、その文化や暮らしぶりと共にあるモノ・空間について常々考えていたことを手紙にしました。
 

 大学が建築系ではなかったこともあり、採用される可能性はほぼゼロと思っていたので、半年経って川口さんからお電話があり「会いたい」と言われた時には驚きました。冒頭の「建築家を目指してみないか」は面接の際に頂いた言葉です。そこから7年程の修行期間は刺激的で、今の自分の糧になっています。
 ただ、建築そのものへの興味は小学生の頃に観ていた、宮崎駿監督の映画や「名曲アルバム」という番組の影響も大きいと思います。そこに出てくる美しい街並みや市井の人々の暮らしぶりというものが、自然環境、歴史、テクノロジーなどと密接な関係にあることを知るにつれ、様々な分野と繋がる建築の世界に魅了されていきました。

住宅設計の拘り 
 日本の風土、風土から生まれる文化や人々の暮らしぶりに、愛おしさのような感覚があります。 その感覚が住宅の設計においては、敷地環境が伝えてくれる声のようなものや、暮らしぶりと共にある個々の家族の物語のようなものへ耳を澄ます行為に繋がっている気がしています。
 敷地環境が伝えてくれる声とは、河川や海との距離、降雨後の水の引き方や日光の入り方、周辺建物の経年状態に加えて、建替えの場合などでは、長く暮らす中で経験された大雨・台風時の出来事など公の資料では分からない事も含まれます。
 また、暮らしぶりと共にある家族の物語というのは例えば、ご家族の家事への携わり方と作業スペースの関係、食に対する考え方をベースとしたキッチンの在り方、集まれる場所とこもる場所の距離感やつなぎ方などが挙げられます。そして、もう一つ大切にしているのは少し先の未来を見据えた、暮らし方についてのご家族のイメージです。

お客様とのコミュニケーション 
 建て主さんの感性が、無理なく自然な形で空間に反映されている状態が理想的です。とは言え、家族でこれからの暮らし方を真剣にイメージし向き合おうとすれば、意見の相違が生まれることもあるでしょう。私はむしろ、意見の相違を共有したり、逆に考え方に共感したりといったプロセスが家づくりにとって重要なのではないかと思っています。
 意見の相違があった時には、それぞれの理由を丁寧に伺い、まずは相違の出どころを整理するよう努めています。性急に解決策を探すよりも時には一段一段、階段を上るように対話を重ねていくことも大切だと思っています。

仕事のやりがい
 どれだけ建て主さんとコミュニケーションを重ねていたとしても、竣工してすぐはちゃんと暮らせているだろうかと心配になり、お電話してしまうこともあります。数年経ってお邪魔した時にお料理や庭の手入れを楽しまれていたり、お子さんやお孫さんが伸び伸びと生活している様子を伺えた時などはとても嬉しい気持ちになります。

今後目指すもの
 近年、環境破壊への意識の高まりやコロナ禍の経験から、建築の領域でも地産地消的な試みが世界各地で報告されています。その土地の素材と技術を活用することで、移動にかかるエネルギーを節約し、地域経済を活性化させる手法は注目に値すると思っています。
 日本は食料はじめあらゆる物の自給率は低いですが、一方狭い国土の中に物流網が発達している国です。世界で報告されている事例よりも広いエリアを想定し、国産資源や技術の有効活用に繋がる設計手法も少しずつ考えていきたいです。

編集後記
 終始、和やかにお話ししていただき、優しいお⼈柄が滲み出ていました。周辺環境や家族のことを熱⼼に考えてくれるからこそ、住みやすい家づくりに繋がっています。だからこそ、お客様が中平さんの設計した建物を見て訪ねてくる理由が分かります。
 今後も宮崎駿さんの美しい映像のように、中平さんが⽇本の⾃然環境を守っていく取り組みに期待しています!中平さん、ありがとうございました。(廣瀬)

  1. 居と間 三重県

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