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前川建築をこよなく愛する建築家 前見文徳さん

 本日の待ち合わせは前見さんがお気に入りの武蔵小金井にある「江戸東京たてもの園」。
 こちらの施設は、文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元、保存、展示する野外博物館です。ジブリ作品の「千と千尋の神隠し」のモデルになった建物もあります。この素敵な環境の中で、建築に関する歴史を含めた深いお話が伺えるのではと期待しながら、敷地内にある築113年のデ・ラランダ邸でお話をお伺いしました。

建築家を目指したきっかけ
 建築学科を卒業していた兄の影響が大きいと思います。大学は武蔵工業大学工学部建築学科卒業後、東京藝術大学美術学部建築学科が大学院を修了。「境界」をテーマに住宅地の緑地・農地と住宅に関するデザインがセントラル硝子国際設計競技で二選となる優秀賞を受賞。独立した現在も、どのようなスケールであっても「取り巻く環境とは常に境界をどのように捉えるかの連続である」という考えが根底にあります。

住宅設計の拘り
 平屋をお客様へはお勧めしたいです。平屋にはシンプルさと生活のしやすさ、動線の豊かさを生み出すことができます。家はお客様と共にあると思っていますので、生活してからの変化に慌てることのないよう、事前に将来叶えられる余地を打ち合わせで共有し、お客様が育てていける設計を大切にしています。

巨匠の建物はこの先の日本の未来につながるヒント!
 2023年、現状空き家は860万戸、2060年には日本の人口は9,000万人を割り込み、地方の問題であった空き家は都心でも身近な問題となります。そうお話される前見さんは、東日本大震災の被災地である、宮城県東松島市のご出身。町がどのようにして寂れていくのかを身近で見てきた方です。都心の建物のあり方、地方の生活の仕方については、是非、日本全体の課題として、建築家としていろいろ提案したいと思っています。
 こちらの博物館に移築された建物を見てください。巨匠 前川國男先生が作った家は、とてもシンプル。高気密高断熱、耐震指数等、現在の安心とされる指針や基準は何もないけど、長く、日本の建築物として大切にされています。樹脂サッシはアルミサッシの熱還流率をカバーするために、考えられた工法ですが、結果として、樹脂サッシは高気密高断熱には非常に重要な部材となっています。そして巨匠の建物を見てください。サッシは木製です。木の熱還流率は非常に少ない値のため、季節伴わず、一定の温度を保ちます。熱くもならないし、冷たくもならない、そうしたものが重ね繋がったものが、巨匠の作品です。私は世代交代があっても、長くつきあっていける住まいづくりを大切にしたいと思っております。そのような建物が建つことで空き家問題も解消されていくのではないか、但し、地方はとても深刻。人口が減少すれば、インフラの不便さは必ず比例し、そして寂れていきます。それをどうにかして、解決できないか、その答えを巨匠のこれまでの実績や考え方から学んでいます。今はまだ答えは出ていないけど、これからも考えることを続けていきます。

編集後記
 巨匠の作品をお伺いする中で、高気密高断熱にして家の中の温度が一定であることが健康住宅というのか、自然素材が使われ家の中でも多少なりとも季節を感じながら洋服で調整し、長く佇む方を健康住宅というのか、それはわかりません。というお話がとても印象的でした。建築家と建てる住まいとは、お施主様のご意向とそれをプロの視点で想像以上に設計し、現在の様々な基準をクリアし、資産としての価値を見出すことだと思っていましたが、そこに人口減少や空き家の問題を考慮した場合、もっと違った視点で設計を考えていくことも重要であることを学んだ気がします。
 前見さん、巨匠を見習った先に答えが出ましたら、是非ご教示ください。
 ありがとうございました。(廣瀬)

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