作品詳細
敷地は鎌倉山の北斜面の風景に正対する高台の住宅地です。敷地の南側には多くの樹木が生い茂っており、旧家の庭の面影を残していました。加えてこの近隣一体は長い年月をかけて形成されてきた緑豊かな景観と住民同士の良好なコミュニティが現在でも維持されています。こうした近隣環境との関係性を踏まえながら、正対する山並みへの眺望、既存の樹木群といった各要素を紡いでいくように住宅の建ち方を考えていきました。
まず敷地中央に矩形のボリュームを配置し、その両側に庭をつくっています。道路に面する北側は近隣にも開かれたパブリックな前庭、既存の樹木が残る南側は家族のためのプライベートな庭として位置付けました。この2つの庭をつなぐように屋内中央に土間を通し、ここに200mmレベルを上げた内縁を設えることで、見知った来客を迎えられるかつての民家の縁側のようなセミパブリックな性質を持たせています。玄関引き戸を全開にすると、前庭→内土間→南庭と屋内外を横断しながら空間が連続し、パブリックな庭からプライベートな庭へと段階的に変化していきます。
土間から階段を上がりリビングへ至ると、南の間口全面には対面する山並みの眺望が広がり、吹抜けを回りながらダイニングへと至ります。螺旋状に回遊する動線の過程で視線の先は南庭の樹木、空、南側の山並み、北側の町並みへと各方面へ展開していきます。その動きに沿うように2階全体を支持する変形型の方形屋根を架け、1階から続く大らかなワンルームを構成しました。
高台の敷地ならではの眺望を享受しつつ、町の環境や既存樹木といった各要素との関係性を紡いでいくことで、それぞれの階や屋内外を横断して豊かな暮らしが展開していくことを考えました。
村上 康史
村上康史建築設計事務所
東京都
HP:https://ymarchi.com/
「関係性をデザインする」
建築や住まいはその規模や用途に関わらず、まちの風景や地域の環境、使う人の所作といった多様な要素との関係性で成り立っています。そうした多様な要素を周囲の環境や与条件から見出し、それぞれとの関係を丁寧に紡いでいくことで、連続した広がりを持つ空間をつくることを心掛けています。
「大らかで柔軟性のある建築」
伸びやかな居心地の良さを持った大らかな空間をつくることを大切にしています。高さや奥行きのバランスを取り、環境との関係を見定めながら、心地よい空間をつくることを意識しています。同時に使い手や時代の変化も受け入れられる器としての大らかさも大切です。年月が経過しても魅力が保たれる、寛容で柔軟性のある空間の在り方を考えています。