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給田の家

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作品詳細

日本の伝統的民家は庭からの直射光を遠ざけるように座敷の外側に回廊や縁側、深い庇を設け、その結果生じる内外の輝度差が庭をより美しく際立たせ、室内に生じる陰が、わずかな光の濃淡を情緒豊かに演出してくれる。一方、都市の過密化や敷地の狭小化によって隣家との十分な隙間を確保することが難しい現代の住宅は、光の濃淡を自然につくり出す空間的余裕もなく、必要以上に光を希求する余り、室内は均質な光で満たされる。この住宅の施主は「小金井の家(新建築住宅特集2011年8月号掲載)」を本誌でご覧になり、大人の趣を感じると弊社に設計を依頼された。人が本能的に恐れる暗闇を意図的につくり出し、わずかな光の濃淡を楽しむことは大人の嗜好に他ならない。

水平方向の光の層
南北に細長い敷地は室内の光の濃淡をつくり易い。周囲には住宅が建て込んでいるので、南の端には確実にダイニングの延長になるように黒い板塀で囲まれた南庭を配置し、建物を挟んで、北の端には町並みの一部になるような白い御影石や三和土が敷かれた北庭を、リビングの延長として配置した。ダイニングとリビングの間には、あえて南からの光を遮るように階段と洗面室のボリュームを挟み込み、南庭→ダイニング→リビング→北庭と段階的に変化する光の層をつくり出した。光沢のある黒い床の上を徐々に変化する反射光がそれを際立たせてくれる。

光の舞台装置
黒い板塀で囲まれた南庭は光が戯れる舞台装置である。それは緑を美しく演出するだけでなく、強い日差しが差し込んだかと思えば、次の瞬間には墨を流したかのようになり、天候の状態や季節、時間帯によって実に様々な表情を見せてくれる。ダイニングの南庭に面した開口は、木製サッシを完全に引き込むことができるので、その舞台装置を眺めるスクリーンの役割を果たしてくれる。室内の床と高さを揃えた南庭のベンチに座れば両者の立場は逆転し、今度はそのスクリーン越しに室内の光の層を望むことができる。

垂直方向の光の層
より闇の深い北側のリビングは微妙な光の濃淡を楽しむのに丁度良い。南北方向の壁際に設けられたトップライトと東西方向の壁際に設けられたトップライトを対置させることで起こる光の競演が、垂直方向の光の減衰の時間的変化を意識させる。北庭側に目を転ずれば、ほぼ大きさを揃えたスクリーンが並び、異なる光の状態を際立たせてくれる。玄関側のスクリーンから見える眩いばかりの光は、高さ6mにも及ぶ漆喰壁や白い洗い出し三和土で囲まれたシリンダーを乱反射した光であり、北庭側のスクリーンから見えるほの明るさは簾を通して弱められた優しい光である。いずれも光そのものに意識が集中するように、光源であるトップライトやハイサイドライトは見えづらい位置に設置してある。

光の配置計画
思い返せば、この住宅の設計は間取りを計画していたと言うよりは、光の配置を計画していたのに近い。緻密な計算によって日本の伝統的民家にあったような情緒を現代の住宅でも蘇らせることができるのではないか。光を映し出すのに適切な素材を選び、光を乱反射させて溜めるのに丁度良い容積を空間に与え、光の減衰を計算して距離を決める。直接的に光を弱めたい時には障子や簾等の遮光建材を使用する。住まい手は計算してつくり出された光の濃淡の中で、食べるのに丁度良い場所をダイニングに、寛ぐのに丁度良い場所をリビングに、寝るのに丁度良い場所を寝室にする。部屋に名前を与えて機能を押し込むよりは身体的には自然なことである。

浅利 幸男

ラブアーキテクチャー 一級建築士事務所
東京都
https://www.lovearchitecture.co.jp/

デザインは人間の感覚や感情に何らかの影響を及ぼそうとすることで、我々建築家は生物としての人間の性質を深く理解することが大切です。住まいの設計は建築の中で唯一、施主=個人への探究行為で、「本当に自分が住みたい家」は事前には良く分からなく、探究の結果、事後的に理解されるものなのです。
プランや機能を満足させることは当然の事だと考えていて、豊かな情緒や美しい佇まいをデザインすることを主眼としています。新築/リノベーション、専用住宅、別荘、賃貸又は店舗併用住宅、ゲストハウス等、日本全国で対応可能です。

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