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建築家

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雁木のある家 北海道

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作品詳細

北海道の住宅において、戦後これまでは厳寒の長い冬をいかに快適に過ごすかということを旨に技術が開発され、近年に至ってその技術は概ね普及してきたのではないでしょうか。
暖かい家を手に入れ、冬の厳しさを凌ぐことができ、心にゆとりを得て、おかれた環境を見直してみると、あらためて北海道の夏は短いけれどすばらしく快適なことに気付かされます。この夏の快適な気候を室内環境にも生かしたい。閉じる仕切りをしっかり整えた上で、開放する仕切りを考えてみました。
敷地は札幌市街の南、南斜面の中腹、住宅街と山の自然林の境で、札幌の典型的な落葉樹の雑木林が残っていました。折角のこの微気候*を利用しない手はありません。樹木をできるだけ残し、建物を建てる場所だけ伐採しました。
外断熱*+躯体輻射暖涼房*+地中熱*利用の小住宅である建物は、敷地の傾斜に沿うようスキップフロア*とし、南北に大きな開口を設け、これに片流れの屋根を架けたシンプルな形態です。南側にこの片流れ屋根から連続する雁木*を設け、アプローチ空間とし、内外をつなぐ中間領域*をつくるとともに、ここではその日射コントロールの役割にも着目しています。
外断熱は室内に熱を取り込むと蓄熱し、これを外部に逃がしにくいように考えられています。外断熱であるがゆえに、夏は暑くて不快であるということのないよう、ここでは雪よけの雁木を南面に設けることにより、冬期には日射を入れ熱を取り込み、夏期には日射を遮蔽し室内への熱の取り込みを大幅に軽減する役割を、この雁木に付加させています。さらに雑木林の木陰の効果もあり、夏期でも空調なしで室内の壁、天井、室温は24℃程度、床は22℃程度、湿度は55%程度に保たれ、涼感な室内環境をつくっています。またこの雁木は、夏には本州の伝統的な建物の深い軒がつくりだすような、おもむきのある陰影をつくり、冬には北国独特の低い光が窓から射し込み、季節ごとに異なる光の表情を室内に与えてくれます。
室内は、南北に茶の間、台所、居間を連続させ、スキップフロアと傾斜天井により、ワンルームでありながら空間に多様性を与えています。北側に設けた大開口は雪の反射光を取り込み、雪国の冬の明るさを感じさせてくれます。南北に向かい合う開口部は、南は木漏れ日、北には陽光を浴びる樹木、表情の違う林を眺めながら、屋外〜屋内〜屋外と、通り抜ける風と視線をつくり、これらを開け放つと、室内の空気は雑木林の空気と一体となります。
北海道の住宅は厳しい自然環境と対峙する空間から、厳しいけれどもそれにもまして魅力のある自然環境と融合してゆく、そんなことも可能になってきています。

*微気候:地面近くの気層の気候です。その場所の細かな地形や地表面の状態、植生などの影響を受けて、細かい気象の差が生じます。この建物の敷地がもつ具体的で特徴的な微気候因子の一つに、落葉樹の雑木林があります。これは、夏期、木々の葉により地表への日射を遮り、冬期には落葉により、地表まで日射を到達させます。
*外断熱:主にコンクリート構造など熱容量(熱を蓄えられる量)の大きい建物の外壁や屋根を包むように断熱材で覆い、蓄えられた熱(または冷熱)を室内環境に有効利用する方法です。躯体(建物の骨組み)が外気の寒暖から守られ建物の長寿命化を助けるのと同時に、大きな熱容量によって建物の温度変動が小さくなり、室内が快適な環境に保たれます。
*躯体輻射暖涼房:ストーブやエアコン、パネルヒーター等の空調機器を用いずに、建物の床、壁、天井から主に直接、暖かさや涼しさを感じられる温熱環境システムです。人の体感温度はおおよそ、室温と床や壁、天井といったまわりの表面温度を足して2で割った温度であることが知られています。例えば、室温が30℃で周りの表面温度が14℃の場合と、室温が21℃で周りの表面温度が23℃の場合を比べてみましょう。両者とも体感温度は22℃で同じです。前者は断熱が良くない建物をストーブ等で暖房した場合などです。この場合は周りからは寒さを感じ、室温からは暑さを感じるという不自然な状態となり、快適とは言いがたい環境です。後者はしっかり外断熱をされた建物を、躯体輻射暖房等により、周りの表面温度を上げる暖房をした場合などです。室温及び周りの表面温度から共に暑さも寒さも感じない快適な室内環境となります。このことから、室温調節よりも、周りの温度を調節するほうが快適な環境をつくり出せることがお解りいただけるかと思います。また、周りの床、壁、天井から直接人体に熱を伝えるのが、電磁波である輻射(=放射)です。太陽から真空の宇宙空間を経て、地球にふりそそぐ莫大な量のエネルギーは、輻射として地球に到達しています。

涼房:一般にエアコンなどで低温低湿な空気を吹き出すことによって、室内を冷却除湿することを冷房といいますが、これに対し、涼房は、冷輻射などを用い、やわらかな涼しさを創り出すことをいいます。

*地中熱:地球上の全ての陸地に存在し、主に太陽エネルギーを起源とする、おおよそ地下200mより浅い地盤の温度が数十℃以下低温熱エネルギーのことを言います。地表から10m〜200mの地中温度は年間を通じておおよそその土地の平均気温よりも1〜2℃高い温度に保たれています。このエネルギーはヒートポンプという機械で汲み上げ、冬は暖房に、夏は冷房に、また給湯や融雪にも利用出来ます。
*スキップフロア:階段を介して半階ずつ床の高さがずれていく建物の立体構成をいいます。インテリアの空間が広がって、上下の階に連続感や立体的な流動感を感じさせる効果がります。
*雁木(がんぎ):東北や信越などの積雪地方で、町家の軒先からひさしを長く張り出し、その下を通路として、積雪中でも人々が通行できるようにしたものです。これらの地方では町家に雁木を設けるのは近世以来の慣行でした。
*中間領域:ここでは半屋外または半屋内のことをいいます。

所在地       :札幌市南区
構造設計      :有限会社七田建築構造デザイン
空調設備技術コンサル:北海道ちくだんシステム
施工        :三上建設株式会社
主要用途      :専用住宅+事務所
敷地面積      :518.01㎡
建築面積      :124.89㎡
延床面積      :107.52㎡
構造        :鉄筋コンクリート造+木造
規模        :平屋
空調①       :低温温水式躯体放射暖房 (熱源:地中熱HP))
空調②       :蓄冷式放射涼房
竣工        :2007年2月

照井 康穂

株式会社照井康穂建築設計事務所
北海道
HP:https://www.teru-arch.com/

建築に向き合うとき、いつも思うことがあります。
人々はそこで何を感じ、どう活動し、どんな夢を描くのか。
住宅であれ、学校や商業施設であれ、それは同じです。
建築の存在意義は建物の造形のみで語られるのでなく、そこに用意された空間、あるいは環境が使う人にどう作用するかが重要です。
住まいのデザインや動線計画はそのために思考されるのであり、大型施設もしかり。
集う人々の関係性や心の動きまでも想像し、宝物を探りあてるような気持ちで設計にあたっています。
そして、忘れてはならないのが自然とのつながり。
自然界の摂理を応用した建築環境の創造により、身も心も満たされ、日々の営みを謳歌していけること。
笑顔のときも、そうでないときも、ありのままを受けとめる寛容な建築こそ、私たちが希求するものなのです。

 

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