作品詳細
ゲームクリエーターと放送作家である夫妻の住宅。
ふたりとも仕事と私生活の境目がなく、仕事はもちろん、何かものをつくったり、時には知人も招いてイベントやワークショップもできる余白の空間があったら、と希望していた。
駅から道筋において、建物の規模と道の幅員が段階的にスケールダウンしていき、住宅地の家々の間をわけ入るように延びる私道の突き当たりにこの敷地はある。
高密度化によって近隣には街区の中に浸食していくような袋路状の道が多く見受けられる。
この私道も行き止まりの道で、ここに面した5軒の家々の住人もしくはそこに用のある人くらいしか通らない、小さな公共性とても呼べそうな領域になっている。
まず、ふたつの性質の異なるヴォリュームを並列させた。
ひとつは生活上最小限必要な諸室が詰まった静的な空間(ウチ)。
もうひとつは私道の延長線上にある開放的で動的な空間で、外部との連続性の強い外部化された内部空間、私道とウチの中間的な性質の空間である。
ここを冒頭の余白(ウチニワ)とした。
ウチニワの北側と南側は大きな開口として、私道そして隣家の庭を住宅内部に引き込むと同時に、私道からウチニワを通じて、南側隣家の庭」へと視線が抜けるようにすることで、この住宅が建っても北側の私道が暗い印象にならないよう配慮した。東側には隣家間の隙間に向けてスリット状の開口を設けた。
ここから見えるのは、高密度化のもうひとつの結果である配管やメーター、給湯器や室外機が雑然と並ぶ、住宅地の無自覚な後姿で、その先に道路へと視線が抜ける。
ウチニワは私道や周囲の住宅地環境を引き込み、イベントやワークショップ時には知人や周囲の人も引き込み、でも住宅の内部でもあるという、公と私の混じり合う領域である。
さらに広い踊場のある折返し階段をウチニワに配慮し、ウチの部屋から部屋への移動の際には必ずウチニワに出るプランとすることで、普段の生活と周囲環境を織り交ぜようとした。
2階建の小さな住宅であるが、外部からウチニワ、そしてウチへと奥にいくほど光量とスケールを絞り込み、スキップフロアで構成したウチの居間や寝室とウチニワの床レベルをずらすことで、ウチとウチニワの身体的・心理的距離感を増幅させようと考えた。
住宅内部に外と内、公と私が重なり合う領域を抱え込ませることで、都市と住宅の間を「切る」か「繋ぐ」かの二者択一の関係ではなく、街から私道の小さな公共空間、そしてウチニワを通じてウチへと、外から内へ段階的に移行していく、懐の深い関係性を試みた。
所在地 :東京都北区
敷地面積:73.07㎡(22.14坪)
延床面積:74.66㎡(22.62坪)
構造 :木造
規模 :地上2階+小屋裏収納
建築施工:コバ建設
竣工年 :2017年
佐藤 森
プラスゼロ一級建築士事務所
神奈川県
HP:http://pluszero.info
人は誰でもデザイナーです。何時に起き、何を食べ、誰と過ごし、何を着て、何をするか、常に人はそれぞれに時間を生活をデザインしています。私たちはそういった人たちが時間を過ごす場所としての建築、そういった人たちが集まって生活をする場所である住宅、を設計する手助けが出来たらと思っています。
設計とは単なる製図ではありません。人の生活とか、住む人の心理や価値観といった目には見えないものを、寸法と線によって形にしてあらわしていくのが私たちの仕事です。