作品詳細
敷地は東京の緑豊かな多摩川風致地区内にあり、条例により建築物は隣地境界から離隔1.5m以上、前面道路からのセットバック2.0m以上が義務づけられている。土地の細分化により過密化が進むこの地において、本来環境保全のためにつくられたこの条例は、もはや形骸化している。間口に対して奥行きの長いこのような敷地の場合、条例遵守の結果、建物周囲に出来る余白は、隣家の外壁が接近する奥行きの浅い隙間になり、室内と連携する良好な庭にはなりづらいのだ。
建物を平面方向にずらし、そのズレを開口部にすることで、室内は開口部越しに隣家の外壁と関係する事なく、敷地内の奥行き方向に広がる緑豊かな庭と関係することが出来る。さらに建物を断面方向に半階ずつずらし連続させれば、階段とズレ=開口は同じ方向を向いているので、昇降運動とリンクする視線は、半階上がったリビングからは学校の樹木を、主寝室書斎からは美術館の庭園を、バルコニーからは神社の桜をと、隣家の外壁を見ることなく、遠くの風景をジグザグに捉えてゆく。近接する隣家外壁を遮蔽する壁は、遠隔の美しい風景を捉えるための開口から降り注ぐ美しい光の濃淡を映し出すキャンバスになっている。
浅利 幸男
ラブアーキテクチャー 一級建築士事務所
東京都
https://www.lovearchitecture.co.jp/
デザインは人間の感覚や感情に何らかの影響を及ぼそうとすることで、我々建築家は生物としての人間の性質を深く理解することが大切です。住まいの設計は建築の中で唯一、施主=個人への探究行為で、「本当に自分が住みたい家」は事前には良く分からなく、探究の結果、事後的に理解されるものなのです。
プランや機能を満足させることは当然の事だと考えていて、豊かな情緒や美しい佇まいをデザインすることを主眼としています。新築/リノベーション、専用住宅、別荘、賃貸又は店舗併用住宅、ゲストハウス等、日本全国で対応可能です。