作品紹介
大阪市内に建つ築100年超の町家の改修です。
道路に面した厨子二階の南側外観は、黒漆喰塗に虫籠窓が穿たれ、木製窓が残る出格子の外にはナグリの駒寄せが囲み、玄関も木製の大戸と大阪町家の特徴がよく残るものです。内部も北側の前栽に面して南北に座敷が並び、その間仕切りの木彫りの欄間は住吉大社をモチーフとしたものです。建具にもゆらぎのある昔ながらの硝子がそのまま残るなど、長い年月を大切に住み継がれてきたものでした。しかしながら経年のうちには柱や壁も随分と傾き、床の不陸も目立つようになってきています。隙間風や暑さ寒さなどまちなかでの現代の暮らしには我慢を求めるものともなっていました。改修に際しては、この住まいが長年保ってきた町家の魅力を最大限保全し継承することを第一に、現代の都市での快適な生活を実現することを目論んでいます。通りに接する南側にはあえて主たる生活部分を配せず、庭のある北側にまとめています。あまり活用されていなかった座敷を日常生活の場とし、その一部を2階床を取り払って高天井として採光を補っています。通りに接する小間は仏間として生活部分との緩衝ゾーンとしました。セルロースファイバーによる断熱で家をすっぽりと覆い、不快な風をおこさない輻射式の冷暖房を採用しつつ、そのパネルが町家の趣きを阻害しないように注意深く組み込んでいます。これまでの住まいの造作や建具にも手を加えたり所を移すなどしてできる限り再利用し、それらは新たな輝きを得てよみがえった住まいの歴史を誇らしく物語っています。
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<物件情報>
●広さ(坪数):57坪
●部屋数:LD+独立キッチン+パントリー+家事室+寝室+仏間+予備室2+納戸+車庫
●家族構成:夫婦
●ロケーション:都市
木村 哲矢
木村哲矢建築計画事務所
大阪府
HP:https://tetsuyakimura.jp/
■ 住まいは 身体の居場所や家財の置き場所にはとどまらず 心の場所でありたいと思います。言葉や数値で捉えられるものだけではない何か を住まいに込めていきたいと考えています。
■ 明るさとともに陰の心地よさを、広がりとともに狭さ・低さがもたらす落ち着きを活かした、奥行のある生活空間を考えてまいります。
■ 生活と、光と、風と、素材とが響きあう素直で正直な空間を提案します。
■ 時の経過とともに人も住まいも育っていく、そのような住まいを目指してまいります。
日本の風土気候に培われた住まいの知恵と趣きを活かしながら、同時に現代的な要素も素直に盛り込み、日々の生活に「ほっ」とする居心地と「はっ」とする新鮮な歓びを見出す“心が新しくなる住まい”をつくっていきたいと考えています。