作品詳細
明治12年(1879)に建てられた民家の改修です。
立派な木材で豪壮に造られた住まいは長年大切に住み継がれて来ましたが、広い玄関土間を始め主な部分は有効に活用されず、二世代のご夫婦は周辺や附属屋で慎ましやかにお住まいでした。床にはこまごまとした段差が多く、湿気とシロアリとで激しく痛んでいました。
改修に際し、住まいを南北二つのゾーンに分け、各ゾーンでは床の高さを整理して揃えます。
南面する旧玄関土間には床を張り、使われなくなった2階の子供室を撤去し吹抜として天井の低さを軽減すると共に陽光が振り注ぐ明るいリビングダイニングとしました。北側に隣接する従前の床高さの和室とは、床座-椅子座の床高の差として、互いの視線の高さが揃います。その間を間仕切る紙障子は視線の高さで横一列を透明ガラスとし、視線の行き来を促します。
豪壮な小屋組みと煙り出しの越し屋根が露出する旧板間は、趣きある玄関として再生しました。長年屋根の上で住まいを守り続けた鶴の鬼瓦を、間接照明に浮かび上がるように飾ってみました。リビングダイニングへ通ずる紙障子には所々に色和紙を配し、黒漆喰が塗られた禁欲的な闇の空間にほのかな色気を添えています。
木村 哲矢
木村哲矢建築計画事務所
大阪府
https://tetsuyakimura.jp/
■ 住まいは 身体の居場所や家財の置き場所にはとどまらず 心の場所でありたいと思います。言葉や数値で捉えられるものだけではない何か を住まいに込めていきたいと考えています。
■ 明るさとともに陰の心地よさを、広がりとともに狭さ・低さがもたらす落ち着きを活かした、奥行のある生活空間を考えてまいります。
■ 生活と、光と、風と、素材とが響きあう素直で正直な空間を提案します。
■ 時の経過とともに人も住まいも育っていく、そのような住まいを目指してまいります。
日本の風土気候に培われた住まいの知恵と趣きを活かしながら、同時に現代的な要素も素直に盛り込み、日々の生活に「ほっ」とする居心地と「はっ」とする新鮮な歓びを見出す“心が新しくなる住まい”をつくっていきたいと考えています。