作品詳細
琵琶湖湖西地方の民家の改修です。
庭に面して最も良い位置に置かれたお座敷は日常的にはほとんど使われず、日々の生活は片隅に追いやられていました。建築主の方はお父様の思いがこめられたお座敷に手を加えることをためらわれていましたが、ここでの日々の暮らしを能動的に活き活きと継続していくことこそが、結果的にはお父様にもよろこんでいただけるものと思い、お座敷の造作を活かしつつも大胆に手を加えた形で住まいの再構成を提案させて頂きました。
お座敷は仏壇をそのまま残し、天井が一続きにつながる仏間と居間とを欄間と紙障子とで緩やかに二分します。床の間と床脇・書院の壁を取り払って居間~食堂~台所はL字型につながりました。折れ曲がりに位置する食堂は2階の床を取り払って吹き抜けとして、水平方向だけでなく垂直方向へも拡がりをつくります。北向きに閉ざされていた旧台所は、居間・食堂越しに庭をも見通せるのびやかなキッチンとなりました。
お座敷を整えていた建材や造作の数々は極力再利用し、新たな持ち場を得て息づいています。書院に用いられていました細やかな細工の書院障子は居間と食堂との間仕切りの要となりました。
長年家族の一員として生活を共にしてきました室内犬と、工事着手直前に保護された子猫への対処として腰周りをタイル張りとして、壁にもモダンなメリハリが生まれました。床暖房とペットとに対応したフローリングは赤みを帯びた樹種を選んでいます。
内外ともに木材に塗られていました弁柄を今回も受け継ぎ、紅色を基調とした住まいは艶やかな装いとなりました。
木村 哲矢
木村哲矢建築計画事務所
大阪府
https://tetsuyakimura.jp/
■ 住まいは 身体の居場所や家財の置き場所にはとどまらず 心の場所でありたいと思います。言葉や数値で捉えられるものだけではない何か を住まいに込めていきたいと考えています。
■ 明るさとともに陰の心地よさを、広がりとともに狭さ・低さがもたらす落ち着きを活かした、奥行のある生活空間を考えてまいります。
■ 生活と、光と、風と、素材とが響きあう素直で正直な空間を提案します。
■ 時の経過とともに人も住まいも育っていく、そのような住まいを目指してまいります。
日本の風土気候に培われた住まいの知恵と趣きを活かしながら、同時に現代的な要素も素直に盛り込み、日々の生活に「ほっ」とする居心地と「はっ」とする新鮮な歓びを見出す“心が新しくなる住まい”をつくっていきたいと考えています。