作品詳細
緩やかな坂道の先に石垣や水路があって、その上には蔵や納屋、風情ある一角にこの家がある。今回は主屋の建替え、そして蔵等の改修である。この家は平屋の南棟と北棟に分かれ、それを跨ぐように一部二階がのっていて、全体は三つの棟で構成されている。これは一階の各室が全て庭に面すること、そして分棟とすることで外観のヴォリュームを抑え、近隣に対して威圧感を与えないようにという思いからである。南棟の西部分は柿の木を避けるため、への字状に折り曲げている。その結果、居間や寝室は南の庭を取り囲む形となった。この南面の開口部は庭との一体化を図るため、欄間にガラスを入れ、内部の傾斜天井を外部へと続けた。また、欄間や柱は鉄骨を用いて細く見せ、庭との繋がりを強調している。この家の夫人はエアコンに頼らず、自然体で生活されていて、この家の要望も通風の良い家、そして断熱性・耐久性の高い家というもののみであった。瓦屋根の深い軒、通風を考慮した開口部、そして木陰をつくる多くの庭を設けることでそれに応えている。素材は耐久性のある栗やクルミ材等を適材適所に用い、年月を刻むことで、色艶、表情を湛え、光によって陰影を醸し出す空間を求めた。そして三つの棟の屋根を全て瓦で葺くことで近隣の瓦屋根とともに美しい甍の波を形成し、この場の風景としての家をつくり出そうと思った。
広さ:75.5坪
部屋数:居間食堂、台所、個室3室、和室
家族構成:3人家族
ロケーション:都市
安原 三郎
安原三郎建築設計事務所
京都府
http://www.yasuharasaburo.com/
自然と対峙する
“自然との共生”や“ランドスケープの中で”といったテーマが叫ばれてから久しい。
もともと人々の生活は里山や田園にみられるように自然に対する本能的な恐れから雑草などと格闘しながら生活し続けてきました。
自然は人間にとって敵であったとも言えます。自然の恐ろしいパワーを考え合わせると、一度自然と正面から向き合うことが必要なのではないでしょうか。
そして“自然と対峙”することで初めて自然の恩恵を蒙ることができるのではないでしょうか。言いかえれば自然と人間が“拮抗と融合”の微妙なバランスをとることが最も大切なことだと思います。
豊かで自立した住空間を作り、そして自然と向き合うことで自然の恵みと調和し、人工と自然が“拮抗と融合”の美しいグラデーションを見せる。そういった住まいを作り続けたいと思っています。